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『開かない扉』

http://sokkyo-shosetsu.com/novel.php?id=493557
でラストだけ間に合わなかった分を追加して完成させたやつです。







 夜の校舎に生徒が侵入することを禁ず、なんてルールは大体どこの学校にも存在している。もちろん僕の学校でもそうだ。
 真面目な生徒はもちろんそれに従う。僕は少なくとも今日の昼間までは真面目な生徒だった。
 ただ、夏に汗だくの体操着を持って帰るのを忘れて、しかも明日も体育があるこの日。
 僕は不真面目な生徒になった。

 午後10時の鐘の音は心臓に強く響く。
 小学生の僕にとって、深夜の外出というのはそれだけで一大イベントだ。うちの親は放任主義だが、夏の門限は夕方6時で決まっている。ただ外に出ること一つ取っても冒険。そんな僕だから、鍵の掛かった校門を乗り越え、警備員が見回りをする校舎に忍び込むのは、まるで潜入系のゲームの主人公になったかのような錯覚を与えてきた。
 遠くでコツコツと階段を歩く音が聞こえる。
 さっき見えた懐中電灯の明かりは東校舎へ向かっていった。僕の教室は西校舎にあるから、たぶん、しばらくは大丈夫なはずだった。
 各階層ごとに東西校舎は繋がっていはするけど、全ての階をジグザグにランダムに見回るなんて動きはおそらくしないだろう。昼間にたまに見る警備員のおじさんは、なんだか腰が曲がっていて、そんなにあくせくと動くのは好きではなさそうな人なのだ。
 だから、気配を殺して、息を潜めて、僕は3Fにある自分の教室へと向かう。
 途中で、2階と3階の間の踊り場にあるトイレが目に入った。

 噂で聞いたことがある。
 このトイレ、夜の10時半にドアを3回ノックして鏡を見ると、鏡の中に『開かぬあの世への扉』が現れるらしいのだ。
 噂の出所は分からない。僕が入学して5年と2ヶ月、実際に試してみたって奴も聞いたことがない。ただ、漠然とした噂だけは何度も耳にしたことがある。

 もしかしたら、僕より前に不真面目だった生徒が試したことがあるのかもしれないな。

 そんなことを考えながら、僕はトイレを素通りして、自分の教室へと向かった。
 入り口に手を掛け……るが、ドアが、開かない!
 ドアが鍵穴に引っかかった小さな音が、再び僕の心臓を大きく跳ねさせた。
 今の音は微かだ。でも、警備員に聞かれていたら?
 慌てて、でも音は立てないように、僕は打開策を考える。周囲を見回して――そうだ!
 目に飛び込んできたのは、教室の下にある小さなドア。脱出口なのか通気口なのか、本来の用途は知らないけど、よく鬼ごっこの時の逃げ込み口やらなんやらに使われているそれに、僕は無音で急いで近付いた。
 鍵が……鍵が開いていれば、こっそり中に入れる。
 ひとつひとつ。レールの音を響かせないように、僕は丁寧にかつ急いで確認していく。一つ目、ダメ。二つ目、ダメ。三つ目。ダメ。最後……開いてる!
 こうなってくると、僕は本当にゲームの潜入スパイみたいな気分になって、音を立てずに中へと入ることに成功した。
 進入したドアを一旦閉じ、さっきからドクドクと鳴っている心臓に手を当て、深呼吸をして息を落ち着かせると、なんだかミッションをクリアしたみたいに両手を挙げる。
 そして、抜き足差し足忍び足で、机に向かう。第二ミッションコンプリート。アイテム『たいそうぎぶくろ』は、最早僕の手中にあった。

 後は、脱出するだけ。
 そう思って振り向いた僕の視界の端。出入り口にはめ込まれたガラスの外に、なぜか光が見えた気がした。

 まずい。
 もしかして、やっぱり音を聞かれたのだろうか!?

 僕は口を塞いでその場にしゃがみこむ。机の下に隠れる。光は見間違いじゃなかったようで、目線だけ上に上げると、光の量はどんどん大きくなっていた。

 見る。ドアはしっかり閉めた。
 こっちに気付くな。
 通り過ぎろ。
 通り過ぎて――。もう、戻ってこないで。

 光が近付いてきて、僕は思わずギュッと目を閉じた。
 こつこつと警備員の足音が大きくなる。
 ……そして、遠くへ去っていく。

 口から手を離し、ぜぇ、はぁと深呼吸をした。もう、怖いものは何もないような気がした。
 入ってきた教室の下のドアを再びゆっくりと開き、潜り抜ける。もしかして、警備員の向かった方向へ後を付けた方が見つからない?
 いや、振り向かれたらすぐに見つかるなんて、ばかばかしい。
 僕は元々来た道を戻る。幾度の困難を潜り抜けた僕は、なんだかよくわからない全能感みたいなものを味わっていた。足音はひそかに、それでもスキップみたいなテンポで、階段を下りる。
 そこに、トイレがあった。
 そのとき、時間はちょうど10時半頃だったことに気付いた。というか、このトイレのすぐそばに時計があって、それは自然と目に入るのだ。
 やってみるか? と、僕は頭の中で自問自答した。
 やってみたい、と僕の頭の中から回答が来た。
 潜入ミッションを成功させた僕だ。もしかしたら、『扉』ってやつが見えるかもしれない。

  昼のトイレがにぎやかというわけではないけれど、夜のトイレの中は静寂に包まれていて、なんだか息苦しさがある。
 ちょっとだけ後悔みたいなものが襲い掛かってきたが、入ったからには、後戻りするのはチキンな人間のやることに思えた。
 意を決して、僕は歩を進める。
 鏡の前には清掃用具入れのロッカーがある。まずは、そこに立つ。
 そしたら次に、10時半きっかりを告げる鐘の音を待つ。鐘の音は3回鳴るので、それと同時に、3回ロッカーのドアをノックする。
 トイレの中はちょっとにおうから、深呼吸はしたくない。代わりに柔軟運動みたいに手足を動かし、その時を待つ。

 ごぉん……。
 一度目の鐘が鳴った。僕は右手の中指でドアをノックする。
 二度目。鐘のリズムに合わせるように、ゆっくりと。
 そして三度目。鐘の壮大な音と、プラスチックのドアを叩くチープな音が、変な調和を生んでいるような気がした。
 3回叩いた僕は、恐ろしい何かが現れることにちょっとだけ期待しながら、後ろを振り向く。そこには、

「やあ。君は生徒かい。こんな時間に、一体何をしているのかな?」

 懐中電灯の明かりと、にこにこ笑う警備員。
 さっき完全に反対側に行ったはずなのに。どうして、どうして!
 そんな僕の驚愕を察知してか、警備員は笑顔を崩さないまま、こう続けた。

「噂、知ってるだろう? 流したのは僕なんだ。夜に校舎に入る子は、皆興味深々で10時30分にここに来るんだよ」

 だから、いつも捕まえられるんだ。警備員の説明に苦笑いを浮かべた僕が、いつも鍵が掛かっていて入れない警備員室へと連れて行かれたのは、言うまでもなかった。
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テラタカ

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