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WIXOSS/メタゲームの変遷 2年目

 この話をする前に、5周年を過ぎた『今』のWIXOSSにおける『オーソドックスなデッキ』がどんなものか、一度確認しておきたい。
 特定の耐性能力を持たない限り、シグニで3面要求が当たり前。
 それに加えて2ケタ面以上の防御手段はまあ基本的に持っており、その上で何かしらの妨害能力やリソース搾取能力、あるいは飛びぬけた耐久能力といったそのルリグの特色がある。……まあ、そんなところだろう。

 なんでWIXOSS2年目のメタゲーム記事の前に、そんな話をするのかって?
 それはもちろん――今の環境は、昔の環境に比べてどれだけインフレーションしてるのかを知ってもらいたいからだ。
 1年目のメタゲームで出てきた【タママユ】は、基本的に《先駆の大天使 アークゲイン》を綺麗に使いこなせばいい分、その平均的な防御面数は《モダン・バウンダリー》《モダン・バウンダリー》《アンシエント・サプライズ》×2の合わせて8面程度が基本。
【水獣ACRO】は、フルハンデス+当時としては強めな耐性盤面を持つ代わりに、3面要求なんてのは夢のまた夢。そして《コード・ピルルク ACRO》は防御能力を持っていないため、もちろん総防御面数は7~9面程度。
 ルリグにライフ回復能力を持ちアーツも5枚使えた【紅蓮ウリス】でさえ、《グレイブ・ガット》が手札を捨ててルリグパンチを通してしまう分防御面数の総数は10面かそれにちょっと上乗せしたぐらいだ。

 そう。当時の環境というのは、強い面開けと、一定以上の防御総数と、あるいは余裕を持った妨害能力のうち1つか、よくて2つをどうにか持っているぐらいで十分にメタゲームには入れていたのである。
 今の水準レベルで『毎ターン全面開けと一定以上の防御数と一定以上の妨害能力を持っているデッキ』なんて存在しているわけがない。


 そんなものが存在してしまったら、間違いなく一瞬でトップメタデッキになってしまう。




もくじ
セカンド・ソリティアゲーム――WX07【ネクストセレクター】~WX08【インキュベイトセレクター】
昇華、第三兆候、のち失墜――WX09【リアクテッドセレクター】~WX10【チェインドセレクター】
サード・ソリティア&ファースト・ショット――WX11【ディストラクテッドセレクター】~WX12【リプライドセレクター】
メタゲームに新規で登場したデッキ群



■セカンド・ソリティアゲーム■

『そいつ』がやって来たのは突然だった。

 4弾で登場した【ミルルン・ヨクト】というデッキは、明らかに弱いコンセプトのデッキだった。メインのクラスである原子のシグニは4種類しか同時発売せず、SRを飾る《羅原 Ne》は0コストで面を開けると言えどシグニを2面ダウンするので要求力はかなり小さい。同弾で発売した《不可解な誇超 コンテンポラ》ほどド派手な耐性を持っているわけでもない。
 5弾にて出てきた《ミルルン・ティコ》は刺さらない相手にとことん刺さらない怪しげなコンセプトであったし、《羅原 U》はリソースを得る代わりに殴れない面を2ターン残すことになり、対戦相手に長い長い隙を与える。《RAINY》というピルルク以外にも使いやすいハンデスカードこそ出てきたが、ミルルンにはそれを上手く使い切るスペックがなかった。

 一々除去のために寝ているシグニが邪魔になり、リソースが増えないままシグニをリムーブしながらどうにか攻める、箸にも棒にも掛からぬルリグ。【ミルルン・ヨクト】の6弾終盤までの評価は、誰が見てもそれだけのものだった。
 シグニがダウンしながらアドバンテージを取り、そのせいで攻撃とリソース循環の両立がまるで成立しない。大きな弱点を抱えたまま7弾に突入したミルルンは、そこに、《羅原 UuO》という1枚のカードが存在していることに気付いた。

 それは、必然的な変化だ。

 ダウンしたシグニを2枚巻き込んでそのままエナへと向かい、自身の場をがら空きにしながら相手の面が開けられる。面が空いたということは、新たなリソース獲得用のシグニを配置できる。
 そして、リソース獲得シグニの中には、トラッシュに落ちた原子を何でも回収できる《羅原 U》。リムーブによる圧縮力の低さと攻撃力の乏しさに悩んでいたミルルンの全てを覆すカードが《羅原 UuO》だったのだ。
 こうして、リソースの循環機構を手に入れたミルルンは、回転力に多少の不安を残しながらもめでたく環境入り。

 ……で、済む話じゃなかったのだ!

 2015年7月。中身が切り替わったセレクターズパック、つまりはWIXOSS PARTYの参加賞。そこに入っていた《MAGIC HAND》というひとつの強化を、いや狂化を経て、とうとう【ミルルン・ヨクト】は暴れ出した。
《MAGIC HAND》はただのユニークスペルだ。要するに、自分のシグニ1体をバニッシュしてルリグ特色に近い効果を発揮するタイプの0コストスペル。ルリグがスペルに対して強い性質を持つミルルンが、スペルサーチのユニークスペルを手に入れるというのは、見た目としては妥当も妥当。
 しかし、ミルルンには6弾で登場した限定シグニ、その名も《羅原 Ar》がいて。こいつらが、どうにも"良くない"奴らであった。

 起点は、何でもいい。
《羅原 U》が引ければ、そこから1アドバンテージとして《羅原 Ar》が無償生成される。回収した《羅原 Ar》を出せば、1アドバンテージの《MAGIC HAND》が無償生成。《MAGIC HAND》は、場で寝ている《羅原 U》をバニッシュして《RAINY》をサーチ。《RAINY》のドローでソリティアパーツのどれかを引けば、また同じように《RAINY》が続く。
 途中でデッキが止まりそうでも《羅原 He》や《THREE OUT》といった追加のドローソースが大量にある。それらを利用して、リソース獲得カードのどれかに触れられればソリティアは止まらない。
 そう、《MAGIC HAND》を獲得したミルルンが手に入れたものは、『バニッシュに力を入れない限り、ハンデスしながらなぜか自分のリソースは増えている』という、意味不明なデッキ回転法だった。

 デッキが回転すれば、攻撃のパーツは集まる。面要求用のパーツは使っても差し引きでアドバンテージがほぼ減らない。そして、回転しているうちに相手の手札は勝手に消し飛んで、自分の手札とエナは欠伸していても潤沢になる。
 メインデッキで行動を全て完結させられる上に、ルリグがスペルカットインの役割も担っているため、アーツは5枚全てを防御アーツとすることができる。度重なるリフレッシュで損傷率が激しくなるライフクロスは、フルハンデスによる相手の行動の鈍化と単純な防御アーツの枚数差でどうにかする。当時は、それで十分どうにかなった。
【オサキループ】とはまるで違う、新たなソリティアの形態。【オサキループ】が《修復》を使ってじっくりと詰みへ持ち込む『守りのソリティア』だったとするならば――この2015年式のミルルンは、自身のリソースを完璧に蓄えながら、相手の場を崩壊させ、相手の手札もメチャクチャにする、いわば『攻めのソリティア』。それが、メタ外から突如としてトップメタに上り詰めた、【ミルルン・ヨクト】というデッキだったのである。

 過去の注目度の低さという鬱憤を晴らすかのごとく大暴れする【ミルルン・ヨクト】に対し、環境の旧トップメタルリグ達は何もできないでいた。
 これは、この7弾・8弾が新ギミックであるレゾナとクロス&ヘブンを推したエキスパンションだったためだ。

 ミルルンこそ奇跡的な噛み合いを見せて少ない強化を最大限に利用したが、基本的には『複数カードを使って戦おう』といったコンセプトのカードばかりが収録された弾。フルハンデスと強力な単発パンチで攻め立てるミルルンに対する有効手は1枚を残して存在しなかったと言っても過言ではない。
 強いて言えば、【紅蓮ウリス】が 黒ルリグお得意の回収能力で《破戒の左像 アギョウ》 《破滅の右像 ウンギョウ》のそこそこ優秀なダメージソースを活用するのと、値千金のダメージソースである《コードアート H・I》《コードアート D・Y》を手に入れた【ピルルクΖ】が多少の活躍を見せるのみ。
 環境は、『全てのルリグに勝てるミルルンとそれ以外』という、黎明期を彷彿とさせるものへと移っていた。

 さて、そのミルルンを咎めた8弾環境後期のルリグは、なんだったのだろうか?
 リソース獲得もリソース搾取も自由自在、そしてスペルロックも完備で、実は《羅原 UuO》がアタックトリガーバニッシュの対策にもなってしまう。そんなミルルンの、たった一つの隙。それは――そこまでしても、やはりエナを全て刈り取られてしまえば防御することはできないという点にあった。

 WX06。WX08。《羅植 カヤッパ》と《ペイ・チャージング》。ノー・パンチをされてだぶついた手札を簡単にエナへと変換できる2種類のカードは、半年前に少しだけ流行した【晩成爾改】を、スペルの一切絡まない高濃度なショットデッキへと変容させ、この環境で唯一の『ミルルンを喰い得る』アーキタイプに昇華させていた。
 理不尽を叩きのめすのは、それを上書きできるほどの理不尽。あたかもそう言わんばかりの4点シュートは、《RAINY》の都合上4t目からしか最大威力の回転ができないミルルンを、そしてそれに飽き足らず少しばかり環境に残っていたりした他のルリグ達を、あり得ない速度で処刑した。

 大量に刷られたクロスシグニや、クロスシグニの活用を促進するルリグレアのルリグ達。新たに登場したレゾナギミックと、それを駆るサシェやミュウといった新ルリグ達。
 運営陣がおそらく思い描いていたであろう『新ギミックが活躍する環境』は、《羅原 UuO》に、《MAGIC HAND》に、《ペイ・チャージング》に。ホイルですらない、片隅のカード群に滅茶苦茶に破壊されることとなった。

 最後に、使用者数は圧倒的に少ないデッキであるが、【止めエルドラ】のことを紹介せずに7~8弾環境を書き終えることは不可能であろう。
《バースト・ラッシュ》《DYNAMITE》という現在では同時使用不可な2枚を使い、リソース確保できるLBで手札とエナを補充しながら《羅輝石 ダイヤブライド》のLBで相手のライフを全て叩き割り、最後は《烈情の割裂》からの《幻竜 スヴァローグ》LBで相手のエナを焼き切る。
 1止めさえも正当化されたこの止めデッキは、この弾からしばらくの間、地雷デッキとして各地のプレイヤーを脅かすことになる。



■昇華、第三兆候、のち失墜■

 LBが発動した時点でゲームが機能しなくなる、というあまりのヘイト値の高さから、ひっそりと《ノー・ゲイン》が規制された9弾発売直後。
【晩成爾改】が【ミルルン・ヨクト】を駆逐したかに見えた環境で、しかし、ミルルンはすぐに更なる高みへと進み始める。
 そして見つけたのが、《TRICK OR TREAT》と《幻獣 ベイア》という2種類の過去のカード群だった。
【晩成爾改】は結局のところ、だぶついた手札を全てエナに変えるオールインコンボのワンショットデッキだ。それに対して【RAINY】しかハンデス札を持ちえず、Lv4になるまでロクに妨害ができなかったというのが、【ミルルン・ヨクト】の敗因。
 だから、3t目までに打ち込める強いハンデス札として《TRICK OR TREAT》を積み込んだ。

 そして、『相手のライフがチェックゾーンにあるうちに無理矢理リフレッシュに入ることで相手のLBを発動させないようにして、LBによる予想外な敗着を消し去る』という特殊かつ安全な勝ち筋を作るべく搭載されたのが《幻獣 ベイア》だ。
 後は《烈情の割裂》でリソースを縛り続ければ、これで【晩成爾改】は封殺できてしまう。
 デッキ全てを回すからこそ、ソリティアは対応力が高い。【オサキループ】に始まり、そして2019年現在にも受け継がれているソリティアデッキの理念は、【ミルルン・ヨクト】にもしっかりと該当するものだったのだ。

 それに加えて、9弾の発売およそ2週間後に《コードアンチ メイジ》が登場。【ミルルン・ヨクト】はこのアーツ外防御を毎ターン構えることぐらい容易であり、とうとう、攻めのソリティアは鉄壁の防御力さえも手に入れてしまう。
 これで、再び環境は『全てのデッキに有利が付く【ミルルン・ヨクト】とそれ以外』の構図に逆戻りした。
 第三兆候。それはつまり、『攻めと守りを得たミルルンが完全王者として君臨する、3回目のソリティアゲーム期の兆候』のこと。

 ではない。

 あまりにもミルルンが目立ち過ぎていたせいでその強さの認知が遅れた、ある2つのデッキ。そのうち片方に採用されたとあるカードが、後に新たなソリティアを生み出したというのが、第三兆候の真相だ。
 ただまあ、そのデッキの完成形が表舞台に出るのは9弾発売からかなり経過した後になる。それより先に、『ミルルンに付け入る隙がかなりある』ということでこの時期にその数を増やした【アウェイクタマ】について書いておこう。

 当時【タママユ】がミルルンに勝てなかった理由は、以下の4つが挙げられた。
①そもそもフルハンデスを重ねられるせいで動きを安定化させられず、要求も《先駆の大天使 アークゲイン》も使いたい時に使えない
②《ミルルン・ヨクト》が《先駆の大天使 アークゲイン》を処理できるため、引いたものを出しておいてそこを守り抜くという戦い方ができない
③《アイドル・ディフェンス》+《アンシエント・サプライズ》+《スピリット・サルベージ》や《コードアンチ メイジ》のせいで2t突撃を普通に耐え抜かれる
④【ミルルン・ヨクト】側の要求スピードが毎ターン3面+フルハンデスルリグパンチで非常に早く、突貫までの準備期間が短い
 すなわち、《先駆の大天使 アークゲイン》込みの3面突貫を(相手が防御準備を整えないうちに)完成させたいのに、肝心の《先駆の大天使 アークゲイン》をピンポイントに《創世の巫女 マユ》のエクストラターンタイミングで場に出すことが困難、そして準備が遅ければ普通に点数を通されて死亡、準備が早くても《アンシエント・サプライズ》ぐらいは吐かせておかなきゃ耐え抜かれてしまうわけだ。

 これを解決するべく、9弾で登場した《グレイブ・アウェイク》を投入し、ひいてはそれを使いやすくするためにデッキの色を大きく黒に寄せたのが【アウェイクタマ】だった。
 ルリグデッキに《グレイブ・アウェイク》さえ置いておけば、どんなシグニでも蘇生できるこのアーツが《先駆の大天使 アークゲイン》を確実なタイミングで場に降臨させることができる。
 デッキの黒を重めにすることにより、これまで《弩砲 ヘッケラ》《轟砲 コック》などをダメージソースにしていた枠が《アイン=ダガ》や《コードアンチ ドロンジョ》(+《ゲット・インデックス》)に変化。序盤の妨害が入りにくいタイミングから点数要求ができる。
 最終的には《コードアンチ マズフェイス》まで入れて《先駆の大天使 アークゲイン》のための露払いを即座に済ませる型も登場。【アウェイクタマ】は【ミルルン・ヨクト】に対して(特に先手から)マグロにならずに戦える、当時のタマの有力アーキタイプの一つになった。

 9弾環境最後のデッキとして紹介するのが、【スペルク】だ。
 9弾発祥のギミックのひとつに、『姉妹シグニ』というものがある。特定の名称を持つシグニとシナジーするカード群の総称で、2019年環境だと《似之遊 オキクドール》《幻怪 ユキンコ》などがその類型として当てはまる。
 今回登場したのは《原槍 ラナジェ》《コードアート C・L》《コードアンチ ロポリス》《羅原 オリハルティア》《幻獣 コサキ》の5枚。このうちの3枚は環境デッキで使われるカードとなるのだが――最も早く頭角を現したのが、《コードアート C・L》だ。
《コードハート V・A・C》がトラッシュにいたらトラッシュからスペルを1枚回収。一見よくTCGで見かけるスペル回収効果で、そんなに派手には見えない。

 しかし、デッキの循環が簡単なWIXOSSというカードゲームにおいて、トラッシュから任意タイミングで好きなスペルを拾えるこのシグニは圧倒的な性能を誇った。
 エナが足りなければ《CRYSTAL SEAL》を。手札を供給したければ《RAINY》を。多少エナか手札が心配でも、適宜足りない方を回収していけば途切れるということはほとんどない。
 そして、最早ミルルンで見慣れているが、このデッキも『《CRYSTAL SEAL》や《RAINY》でデッキを回転させる』という基本行動を取っているうちに、気付けば相手の手札は消滅しているのだ。

 適当にスペルでデッキを回したら、《コード・ピルルクΣ》でリミットが12になっている盤面に《コードハート A・M・S》が3枚並び、ミルルンと同じように余裕の3面要求をかます。
 そして、凶悪なショット補助アーツである《ロック・ユー》が、当時は規制もかかっていなかった《烈情の割裂》や《スピリット・サルベージ》と共に相手の防御手段を奪い取るのだ。
《ロック・ユー》がスペル軸でデッキを回転させる【ミルルン・ヨクト】に通りやすいことも相まって、『最低限ミルルンと戦い得る』という当時の環境での必須条件を満たす最後のデッキとしてエントリーを果たしたのが【スペルク】だったのである。

《コードアンチ メイジ》の登場により【ミルルン・ヨクト】が『守りのソリティア』の側面を持つようになったまさにその弾で、対抗策もなく5t前後で相手を葬り去る『ミルルンより早い攻めのソリティア』が誕生する。
【オサキループ】期が一方的な理不尽の環境だったとすれば、9弾環境は理不尽を理不尽で塗り返す環境だったといえた。

 そして、10弾。
 後々様々な環境で活躍を果たすルリグタイプ『アイヤイ』が登場したこのエキスパンションで、とうとうミルルンはワントップの座から降りることになる。

 手始めにこの環境を駆け回ったのは、【鯖軸2止め】だ。
 この弾で登場した《集結する守護》の影響はあまりにも大きかった。あらゆるデッキがサーバントという基本ギミックをそのまま3面ランサーという攻撃力に変換することができるようになるこのカードは、当時としてはあまりにも強力なダメージソースとなったのだ。
 15枚以上採用したサーバントがダメージソースとなり、もちろんルリグパンチを止める役割も持ち、果てには大量のサーバント搭載が様々な色のアーツを積む原動力にもなる。
 多種多様なアーツ、そして軽量のダメージソース。2つの条件を満たせるようになった2止め構築が暴れ始めるのには、それほど時間は掛からなかったわけだ。
 サーバントをパンプして余裕でLv4でも殴れるようにしてしまう【鯖軸爾改】、同弾で登場した《龍滅連鎖》と《ロックユー》を合わせることでミルルン相手に確実なキルパターンが作れる【鯖軸2止めピルルク・リメンバ】、地上でも点数が取れるようになった【鯖軸ファフオーラ】。特にこの3つが当時の有力なアーキタイプだったといえる。

 鯖軸2止めが3種類もメタゲーム入りを果たし、《龍滅連鎖》の影響でエナが容易に吹き飛ばされるようになり、なおかつ滲み出す混濁の《ブラック・コフィン》の採用者が一時的に増えた影響から、【ミルルン・ヨクト】が数を減らす。
 この影響を受けて、こっそりと使われるようになったデッキのうち有力だったのが【耐久エルドラ】だ。元々《音階の右律 トオン》や《修復》を何度もライフクロスに埋めて耐久する構築が見られたところへ、前弾で登場した《コードハート A・M・S》がすっぽりダメージソースへとハマったデッキである。
 動きの速いデッキに対しての耐久力、最低限確保できる《コードハート A・M・S》による展開のスピードアップ。【耐久エルドラ】はデッキパワーこそ少し低めなものの、環境に上手く滑り込む形で各地で戦果を上げて行った。

【ミルルン・ヨクト】を確実に潰せるデッキの登場により一強体制が崩れ、過去の様々なデッキも少しずつ息を吹き返す。WIXOSS初の世界大会が開催されたのは、そんな混沌とした環境の中でだった。
 何が優勝するのか分からない、下馬評でも皆言っていることが違う世界大会。その頂点に上り詰めたのは――なんと、登場からその時までメタゲームに一度も姿を見せなかったはずのルリグ。

【保湿サタンサシェ】だ。

 10弾で登場した《白羅星 プルート》が毎ターンを耐え抜く防御力を生み出し、《白羅星 サタン》が何度も降臨して着実に1点を刻み続ける。硬い防御力と堅実な点数要求が途切れないよう、デッキは手札確保ができる宇宙シグニとエナ確保ができる《三剣》で溢れている。
 果てには《白羅星 プルート》を殴り飛ばそうとした相手も、《コードハート A・M・S》で《白羅星 サタン》をぶん殴ろうとした相手も、何度もアンコールされる《保湿成分》にその行く手を阻まれる。
 他の誰も気付いていなかった《保湿成分》とレゾナシグニ達のシナジーに、この年の優勝者だけは辿り着いた。劇的な勝利と共に、もちろん、このデッキが各地でコピーされてメタゲーム入りを果たしたことは、今でも鮮明に思い出せる。


■サード・ソリティア&ファースト・ショット■

 2016年1月21日。新弾の発売と同時に行われた規制で、半年もの間ワントップに居座り続け、負けるデッキが出てきてもなおデッキパワーでは最強だった【ミルルン・ヨクト】はとうとう使用できなくなる。
《RAINY》の枚数制限によるハンデス能力の著しい低下、《羅原 Ar》と《MAGIC HAND》の同時使用制限による安定感の低下。根幹としていた部分が崩されてしまい、流石の絶対王者も環境からの撤退を余儀なくされた。
 同時に《ロック・ユー》と《スピリット・サルベージ》、《ロック・ユー》と《烈情の割裂》にも同時使用制限が掛かり、前時代を生きたソリティアデッキはその全てが崩壊するハメに。
 また、1弾から長らくショットデッキの詰めを支えていた《大器晩成》に規制が掛かり、緑子以外で使用すると効果が途端に落ちる《因果応報》へと立場を譲る。

 さて。こう書けば、ソリティアデッキが死んだような気がするだろう。ソリティアデッキが規制されて、目の上のたんこぶがなくなった……。当時のプレイヤー達も、ほとんどはそう考えていた。
 そんな中、11弾環境で真っ先にメタゲームに進出したデッキは。そしてそのまま11弾環境で最も勝ちまくったデッキは。

 ソリティアデッキだった。
 その名を【ピルルクΛ】と言う。

 元々、ピルルクは《CRYSTAL SEAL》などのハンデス手段を持ち合わせているため、《RAINY》の規制の影響はミルルンほど大きくない。しかも、10弾で登場したスペルメタである《ブラック・コフィン》に対し、《コードアート C・L》は滅法強い。
《ロック・ユー》というショット方面の行動に規制が掛かっただけで、【スペルク】の根幹自体はノーダメージだったのだ。

【スペルク】のパーツ達を見事に吸収してみせ、そこに《コード・ピルルク Λ》というリソース獲得と防御力を両立したルリグを追加し、おまけに《コードハート M・P・P》でスペル封殺とバニッシュ耐性まで与えてしまう。
 情報公開当初は『弱い』という意見が多かった世論をあっさり覆し、【ピルルクΛ】はソリティアというデッキジャンルが環境最強に居座り続ける期間をもう2ヶ月伸ばすことに成功した。
 12弾の発売前に《コードアート A・L・C・A》が登場したのも、このデッキを強化する一因となった。

 ただ。この弾は、初期ルリグ5人が一気に強化され、またイオナがユキという新たな姿を見せた、ルリグ強化弾。【ピルルクΛ】はポスト王者のデッキでこそあれど、【ミルルン・ヨクト】ほど圧倒的な支配力を持ったデッキとまで行きはしなかった。

【焦熱ウリス】――11弾で登場したルリグを全力で活用するこのデッキは、【アウェイクタマ】が【ミルルン・ヨクト】に勝つ方法を踏襲することにより――即ち、《アイン=ダガ》《デス・バイ・デス》で妨害が少ないうちにダメージを極力通してダメージレースで圧倒的先行を狙うことにより、ソリティアの荒波に真っ向から立ち向かった。
 エクシード効果によりフルハンデスからでも立ち直るスピードが早く、また準限定アーツ《フォーカラー・マイアズマ》のおかげで《コードハート M・P・P》や《コードアンチ メイジ》が構えられた盤面を突破しやすい。
 リソースを奪ってこない相手に対しては、エクシード効果を防御に回すことで過去とは比べ物にならないほどの防御能力を発揮。《バイオレンス・ジェラシー》を使えばトラッシュ回収も過去より数段安定する。

 2弾で登場し、3弾の頃より【植物緑子】を支え続けた《羅植姫 ゴーシュ・アグネス》が、11弾の怪物シグニ《サーバント Z》と手を組んで産まれたのは、書いて名の通り【植物サバZ】である。
《四型貫女 緑姫》のエナ回収能力でお馴染みの植物ギミックを振り回し、エナにサーバントが8枚溜まれば《サーバント Z》が相手のリソースを消滅させる。エクシード2でランサーを使えば点数はそのまま通り抜け、詰めには《因果応報》があれば問題ない。
 サーバント軸のデッキとしてアーツの選択幅も広く、緊急時には緑子の特権《修復》を扱うこともできるこのデッキは、防御ターンを持つショットデッキとして環境で立ち回り始めた。

 植物軸が環境で早々に頭角を現した後、少し遅れて【動物緑子】が二つ目の緑子デッキとして環境に現れたのも、当時の環境をエキサイティングなものにさせる一因だっただろう。
【植物サバZ】が巻き返し困難な状況を作り上げるショットだとすれば、【動物緑子】は《幻獣 コサキ》《幻獣神 オサキ》による奇襲性を持った《因果応報》で相手を仕留める、まさに猛獣のようなデッキだ。《幻獣 モンキ》、《幻獣 キジ》、《一蓮托生》。
 相手から前ターン1点でも喰らっていれば、次のターンには《因果応報》が成立するという理不尽さで、常にどの相手にもワンチャンスを狙っていけた。
 環境後半では《轟砲 ウルバン》を利用したロングショットタイプのデッキまでも登場し、その凶暴性は登場から段階を経て増していった。

 一目で相手のデッキタイプが判別不可能という点は、当時の緑子が対処の難しいデッキとされた理由のひとつといえる。

《一蓮托生》+《紆余曲折》により、止め系のデッキですら《先駆の大天使 アークゲイン》の処理やデッキからのカードサーチが容易になったことも、11弾環境を語る上では外せない出来事だ。
 前弾環境後半に《一蓮托生》からの《羅輝石 アダマスフィア》エナ設置で《羅石 オリハルティア》が使用できるようになった【オリハル爾改】が《西部の銃声》のピンポイントタイミングサーチを手に入れ環境で勢力を増やし始めたという点は、12弾環境にも影響してくるので覚えておきたい。

 そうして、多数のデッキが存在しつつもソリティアが強い11弾環境が終わり、12弾環境が幕開け。
『WIXOSS2年目はずっとソリティアの1年だった』。プレイヤー達がその現実と向き合おうとする中で――12弾の発売後半月もせず、とあるルリグが環境を一時期一色に染め上げる。

【紅蓮遊月】。龍王の降臨だ。

 今現在ですら環境で時折姿を見つけては相手のライフを豪快に割っていく《幻竜 ボルシャック》。12弾当時、そのビートダウン性能はあまりにも強力だったといえる。
 龍獣を強くサポートする《幻竜 アパト》が3月までのセレクターズパックで配られていたこともあり、それまで『《四面楚歌》で詰めること自体はできるが、詰めに行くこと自体に時間がかかる』ルリグだった遊月は、すぐさま暴れ出して瞬く間に環境を支配して行った。

 おあつらえ向きに、この弾は『緑色の龍獣』が登場する弾でもあった。つまり、前弾で性能が保証されている《一蓮托生》《紆余曲折》のギミックを、当然ながらこのルリグも採用することができたわけだ。
《四面楚歌》、あるいは《龍滅連鎖》《捲火重来》による相手のリソースの大幅な搾取と、ハイパワーなショット能力。【紅蓮遊月】から始まった波は、次第に【火鳥風月遊月】や【3止め龍獣花代】までもを環境入りさせ、『青色のWIXOSS』を『赤色のWIXOSS』へ書き換える。

 この遊月旋風を起点に、《四面楚歌》が効かない【オリハル爾改】や《エニグマ・オーラ》による速いターンでの事前防御を持つ【黒電機入り焦熱】、果てには一瞬だけ【アルフォウ】なんかも環境に姿を見せて、このあたりが増えれば再び【ピルルクΛ】も使われていく……。

 ……と〆る前に、最後に上で書いた【黒電機入り焦熱】を紹介しておこう。
《コードアンチ A・L・C・A》が《エニグマ・オーラ》を回収できるというシナジーによって、不安定だった《エニグマ・オーラ》を安定して使いやすいようにしたのがこのデッキだ。
 リソースの供給とダメージソースの確保を同時に行うカードとして《幻水姫 ダイホウイカ》がフルで投入されたのもこのデッキが(メタゲーム入りしたデッキとしては)初であり、正に今の環境まで続くグッドスタッフ系フェアデッキの走りと言える。

 WIXOSSの2年目のメタゲームは、いつでも弱肉強食で、どこにでもアンフェアが存在する環境を突き進んだ。


 ――そんな中で、環境は着実にインフレし、またギミックも増えてゆく。
 コインギミックの登場まで、あと、もうちょっと。

(3/5に続く)



■メタゲームに新規で登場したデッキ群■

WX07~WX08
【ミルルン・ヨクト】
【止めエルドラ】

WX09~WX10
【アウェイクタマ】
【スペルク】
【鯖軸爾改】
【鯖軸2止めピルルク・リメンバ】
【鯖軸ファフオーラ】
【耐久エルドラ】
【保湿サタンサシェ】

WX11~WX12
【ピルルクΛ】
【焦熱ウリス】
【植物サバZ】
【動物緑子】
【オリハル爾改】
【紅蓮遊月】
【火鳥風月遊月】
【3止め龍獣花代】
【アルフォウ】
【黒電機入り焦熱】


※注釈※
 当時の【ミルルン・ヨクト】は普通に【ミルルン】と呼ばれていましたが、将来的に出てくる【ミルルン・モル】と区別するためにここでは【ミルルン・ヨクト】と呼んでいます。
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てらたか

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clustertypeTにするつもりで
タイプミスしました

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後は長期人狼もやってます

基本はデッキレシピ置き場
カバレージや考察も書きます

各記事引用フリーですが
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