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WIXOSS/メタゲームの変遷 4年目

 全てのルリグを全て同じぐらいの強さにするのは不可能だ。カード開発側がどれだけデッキパワーを均そうとしても、プレイヤーはどこからか過去とシナジーを結び付けて環境を傾ける。
 アーツ外防御に対して強い制約を掛け、全てのルリグにとって得意や苦手が存在するように必死で調整されているであろうキーセレクションでさえ、もう既にルリグ間で実力差は生まれてしまっているのだ。歴が違うオールスターにおいては、その制御はひと際難しいものになるだろう。

 では、全てのルリグを(どれぐらい、という観点を除いて)強化するならば、その手段は存在しているだろうか?

 存在している。

 ひとつは、全てのルリグに強化が配られるようなエキスパンションを作るという手段。
 5年目の記事の最後に説明するWXEX01などはこの極致だ。コラボルリグを除きあらゆるルリグを強化すると事前に告知し、その通りに全てのルリグに対して同じ枚数の強化を与えた。
 もうひとつは、強い汎用カードを出してしまうという手段。
 既に登場したエキスパンションとしてこれに該当するのはWX12など。《幻水姫 ダイホウイカ》《コードアンシエンツ ヘルボロス》《真天使の未来 ガブリエルト》《堕落の砲娘 メツミ》、どれもこれも汎用の強力カードとして今の環境を生き抜いている。

 逆に、環境を傾けるならば強い限定カードを作ればいい。
《先駆の大天使 アークゲイン》が受けられるデッキが当初存在していなかったのと同じように、明らかに環境を生み出すようなパワーカードが刷られれば、環境は確実に傾く。

 これまでのWIXOSSと3年目後半からのWIXOSSで最も違うのは、『ルリグ全体を見渡して開発段階で環境を調整しよう』という意識が強く感じられるか感じられないか。これに尽きる(と少なくとも筆者は思っている)。

 2年目までのWIXOSSは明らかにパワーカードを開発陣が見逃し過ぎていたとしか思えないし、3年目の前半は2年目までのパワーカードをたぶん制御しきれていなかった。
《コードアート C・L》は《羅原 Ar》が暴れている理由を理解していないとしか思えないようなカードパワーであったし、《サーバント Z》はコスト対効果が甘く見積もられすぎていた。簡単に3面要求ができてしまうなら《四面楚火》だって実質重さ1/3の《大器晩成》。
 そういう飛び出過ぎたカードに規制が掛けられ、カードの刷られ方も変わり――。この年のWIXOSSは確かに、環境がしっかりと調整されていっているという実感が沸くような1年だった。記憶を掘り返せば、そうだったと思い出せる。

 ただ。
 こんなことを書いて早々に不穏なことを話すのは心苦しいのだけれど、どこにでも裏をかこうとするヤツはいるものだ。




もくじ
華も火薬もまき散らし――WX18【コンフレーテッドセレクター】
金は天下の回り物――WX19【アンソルブドセレクター】~WX20【コネクテッドセレクター】
鍵と天使の新時代――WX21【ビトレイドセレクター】~WX22【アンロックドセレクター】
メタゲームに新規で登場したデッキ群



■花も火薬もまき散らし■

『あれ』は前の年の集大成として書いたが、『これ』はこの年の出来事として書いておいた方がよさそうな気がしたので、前回書かなかったことをまず初めに書いておく。
《修復》や《コードハート M・P・P》が規制を喰らったのと全く同じタイミングで、《バースト・ラッシュ》と《DYNAMITE》の同時使用に制限が掛かったという出来事について、だ。

 原因は2年目に登場した【止めエルドラ】のせい。
《コードハート A・M・S》がLBによるスペルの回収を安定化、《羅石 スイカリン》は場に出せる《炎機の歯車》として活躍。登場後、新規カードによってこっそり強化され続けていたこの少数派の地雷デッキは、大流行の前に釘を刺されたのだ。
 使用者があまりに少ないこのデッキのキーパーツが規制されたのは、当時としては中々に衝撃的な出来事であった。

 こうして、ひとつの地雷が消え去り。
 だがしかし、理不尽なワンショットに命を掛ける地雷の埋め手達は、全然、一切、これっぽっちも諦めていなかった。
 4年目に登場したデッキの一発目として話すのは、そんなワンショットプレイヤー達の新たな手札だ。

 その名を【2止め遊月】と言う。
 前弾の一週間前に発売されたWIXOSS大全の付録である《選択する物語》の登場によって成立したこのデッキは、環境から《アンダー・ワン》が姿を消し、【止めエルドラ】という対抗馬が消えたことによって環境に姿を現した。
《チェイン B&B》によって蓄えられたウェポンのシグニ達が《大火の轢断》を3コストで撃ち出し、ダウンしたシグニが《龍炎の昇拳》と《選択する物語》によってエナへと変換される。《幻竜 ダハーカ》も一緒になってリソースを伸ばし、相手のライフをスペルで5枚ぐらい叩き割ると、最後は《西部の銃声》が相手の心臓を撃ち抜く。
 パズルのように動くこのショットデッキは初見のプレイヤー達を驚愕させると、そのまま勢いを付けて、環境のあらゆるデッキに対抗策を強要する一大理不尽デッキへと昇華することとなった。

《選択する物語》は、あらゆる非ソリティアデッキがユニークスペルの枚数を4枚増やせるという優秀なスペルであり、《大火の轢断》の場を全てダウンさせるというデメリットを完璧に補うことに成功したのだ。

 一方で、このスペルはソリティアデッキにとってもこれまた優秀なスペルであった。
 ソリティアは『不要牌をエナに固めておくことで、リフレッシュ後のデッキを強くする』ことにより回転効率を引き上げるのだが、《羅植華姫 バオバブーン》、そして《選択する物語》は『山札の枚数自体を1枚減らす』という全く新たなアプローチでデッキの回転効率を引き上げた。
『エナにカードが10枚』も『エナにカードが2枚、除外カードが8枚』も、山札の総数では変わらないわけだ。

 これを最大限に活用したのが【圧縮アロス】である。
《アロス・ピルルク N》は手札にパーツさえ揃っていれば無限回数の防御が行えるが、その一方で毎ターン《幻蟲 §ユノハナ§》や《大幻蟲 §オタガメ§》を手札に構え続けなければならない。デッキ枚数自体を減らして回転効率を上げるアプローチは、このギミックと綺麗にシナジーを果たした。
 当時の環境といえば、リソースを大幅に搾取するデッキは規制済みで、アタックトリガーの数ももちろん今より少ない。無限防御の力は今と比べれば絶大で、ピルルクは2年目から続くトップメタ残留期間を更に伸ばすことになる。

 ワンショットとして【2止め遊月】が、スペル軸のコントロールとして【圧縮アロス】が幅を利かせるこの環境だったが、活躍したアーキタイプはもちろんこの2つだけではない。

 どんなに頑張っても、流石に《焦熱の閻魔 ウリス》を超えるルリグは中々作られないであろう。と、そう考えられていたウリス事情を《散華の閻魔 ウリス》が粉々に破壊したのはこの弾のことだ。
 エクシード2で3面防御。それは前の弾までは《コード・ピルルク APEX》《白亜の鍵主 ウルトゥム》の特権だったはずなのだが、このウリスは《死之遊魔 †ルーレット†》の回収効果や《夢国の招待 ドリーミー》を併用することにより3面防御を容易に達成し、それどころかコインまで使って防御し始めた。
 ルリグの防御力、《エニグマ・オーラ》の防御力。《夢国の招待 ドリーミー》や《驚嘆の白煙 ナナン》、《下町の酔魔 センベロ》といった悪魔軸の大量強化。《幻水姫 ダイホウイカ》に頼り切りだったウリスを明確に悪魔軸へと導くカード群によって、すぐに【散華ウリス】は環境デッキへと押し上げられることとなる。

 その後、空中からの詰めを狙う【散華虚幸】のコンセプトも登場し、ウリスの主流は最終的にそちらに移っていくことになる。
 だが実際問題としては、この弾の頃は4止めの【散華ウリス】が多く、明確に逆転した時期は曖昧気味だ。
 一応、19弾《ダウト・クリューソス》の登場でコインの使用幅が増え、また20弾《ダーク・コグネイト》で速い相手に対して撃ちやすい防御を得て以降を。つまり《虚幸の閻魔 ウリス》へのグロウタイミングが安定して以降を【散華虚幸】のメタゲーム入り時期とし、記事最下段の新規登場デッキ群ではそれに合わせて書いておくという旨を今のうちに伝えておきたい。

《カーニバル ‐Q‐》のジョーカー能力と《羅植姫 スノロップ》の回復&耐久能力が噛み合った低速デッキ、【スノロップカーニバル】が登場したのもこの頃だ。
《羅星 ≡タネガスペ≡》《羅星 ≡コニプラ≡》《羅星 ≡ノベアン≡》といった自身のレベルを書き換えられるシグニ群の登場によりリソース供給が安定したこのデッキは、ルリグの『Lv4シグニとシナジーする』という特性と『そもそもLv4シグニはカードパワーが高い』という当たり前の性質が綺麗にマッチし、類稀なるグッドスタッフ系のデッキへと変貌を遂げていく。
 強いカードが一杯なんだから強い。当然のことなのだが、ルリグと限定カード間のシナジーが重視されがちだったWIXOSSにおいて、攻めは《幻水姫 ダイホウイカ》、守りは《羅植姫 スノロップ》とどちらも非限定カードを主軸にした構築は、当時かなり新鮮なものだったと言えよう。
 
 18弾環境は、汎用カードを専用カードや専用効果と強烈にシナジーさせた者達がメタゲームを作り上げて行った。



■金は天下の回り物■

 3回目の世界大会の予選開催時期と被る、この19~20弾環境。
 チーム戦として開催されたこの世界大会では、『セレクター』『ロストレージ』『アザー』という3つ分類の中から、それぞれ1つずつのルリグを選ばなければならなかった。

 そんな中、前弾まででコインを獲得したピルルクやウリスに続き、様々な非ロストレージ組ルリグ達もコインを獲得したのが19弾で真っ先に挙げられる出来事だ。
 それはロストレージ組が持っていた『コインベットアーツの使用権』というアドバンテージがこの弾でとうとう消えたことに等しく。逆を言えば、そのアドバンテージが消えても戦える程度に、ロストレージ組のルリグ達も強化されてきたとも言えるだろう。

 ロストレージ枠最大パワーを誇るアーキタイプとして、最初に注目されたのは【カーニバルMAIS】だ。
 Lv5になることによってLv4のシグニが3枚並べられるようになれば、Lv4シグニとシナジーをするカーニバルにとって強力なのは当然のこと。加えて《カーニバル ‐MAIS‐》による対アタックトリガーシグニへの妨害能力やアーツのノーコスト発射も強力であり、ルリグデッキを1枠潰してLv5に乗っているはずなのに、その耐久性能はただの【スノロップカーニバル】をあっさり超えてみせた。
 環境が進むと、《コードアンチ メイジ》《コードアンチ カイヅカ》によってまさに空っぽの盤面からでも《羅植姫 スノロップ》の防御効果が発動するようにさえなる。こうして、この時期のロストレージ枠ルリグとして、カーニバルはほぼトップの立ち位置を獲得した。

 しばらくしてから発売されたカードゲーマーに収録されていた《羅星 リンゼ》がスペル軸やショット系の様々な相手に刺さり、《羅星 カプスワン》などで宇宙シグニとのシナジーを持っていたカーニバルはそのタイミングでも間接的な強化を受ける。
 世界大会の優勝チームがロストレージ枠に置いていたアーキタイプは【カーニバルMAIS】。ここからの環境を牽引するデッキが誕生したのは、まさにこの19弾の重要ポイントであろう。

 そのカーニバルに次ぐ位置としてロストレージ枠で人気を集めたのが【2止めママ】だ。
 着々と低レベル帯のアドバンテージシグニを手に入れていたママは、ひとつ前の18弾にて《奮闘努力》や《学英の真髄 #スガミチ#》といった最後のピースを獲得。しばらくの研究期間の後、18弾と19弾の境目ぐらいで、とうとう《全知全能》を乱射する凶悪な止めデッキとして環境に降臨した。
 1回撃たれれば、手札が2枚、エナが2枚、場が2枚。合計6枚のリソースを搾取するアーツが、最大で4発も飛んでくる。【2止め遊月】が作り上げた『《西部の銃声》2発を凌がなければならない』という制約に加えて、【2止めママ】は『合計20リソース以上を奪われても耐久しきれなければならない』という新たな環境への制約を生み出した。

 その後《因果応報》と《答英の採点 #アカペン#》や《追英の文章 #オイツキ#》といったシグニ達を利用してショットを目論む【3止めママ】も登場し、その柔らかそうな見た目と反し、ママは理不尽なアグロデッキとして活躍していくこととなる。

 サシェ、ミュウ、アイヤイ、ウムル、タウィル、ハナレ、アルフォウ。アザー枠の選択肢はどれも他ルリグ達と比べて性能がひとつ落ち気味であり、またどのルリグも性能がピーキーで使用が困難な枠だった。
 結論から言うと、この19~20弾環境におけるアザー枠の人気は【スイングアイヤイ】1つにほぼ集中していた。

 現代まで続く遊具シグニ達の優秀なアドバンテージ源から《緑弐ノ遊 スイングライド》が登場し、デッキを回転させる。場に出たレゾナはユニークスペルや《千夜の五夜 シャフリ》でルリグデッキに戻して再利用。
 最終的に相手のリソースを大きく縛り、最後は《緑弐ノ遊 スイングライド》が絡んだ連続パンチが相手を強襲する。
 3止め、《アイヤイ★スペード》型、《アイヤイ★JOKER》型と最終グロウルリグに違いがあり、また相手のリソースを縛る手段も《因果応報》と《烈情の割裂》で異なるなどプレイヤーによって細部に違いこそあったが、間違いなくこのアーキタイプは当時必ず意識しなければならないものだったと言える。
 世界大会優勝チームのアザー枠担当はこのアーキタイプを使用しており、最後にとあるトップメタの入れ替えが存在したりするも、結果としてこの環境を駆け抜けた存在となった。

 ロストレージ枠で【カーニバルMAIS】と【2止めママ】に、アザー枠で【スイングアイヤイ】に人気が集中する中、セレクター枠は群雄割拠の様相を呈していた。

 ここまでの環境で人気のあった【圧縮アロス】【2止め遊月】【2止めアン】【散華ウリス】【散華虚幸】。これらが全部普通に環境にいるというだけでその混沌具合は分かるであろうが、この弾で環境入りデッキは更に複数増えたのだ。

 ソリティアとして生まれ、ショットデッキになり、再びソリティアとして《修復》が規制されるまで環境に居続ける。数奇な運命を辿る緑子というルリグは、1弾挟んでまたもや【ショット植物緑子】として環境に戻ってきた。
《羅星姫 ≡コスモウス≡》という汎用の連続パンチシグニを手に入れ、19弾と同時発売の構築済みデッキにて《ブルー・サジェスト》まで獲得したこのアーキタイプは、《因果応報》《TRICK OR TREAT》《ブルー・サジェスト》で相手のリソースを全て奪い去って強大な一撃を叩き込む、まさしく一撃必殺のデッキだった。
《羅植姫 ゴーシュ・アグネス》の機構さえ生き残っていれば何度でも蘇ると言わんばかりの、執念のアーキタイプと言える。

 ショットデッキで言えば、《謳金時代》によって誰でも《龍滅連鎖》から相手のエナを2まで減らせるようになり、【2止めピルルク】などの理不尽な止めデッキも環境に姿を見せるようになる。

 また、【キスドラ】の登場も忘れてはならない出来事だ。
《羅星 アルファード》とユニークスペルを使い、《幻水 キス》を何度も出し入れすることによって相手のライフを全てトラッシュへ叩き込む。《幻水 キス》の効果発覚の時点でその危険性が認知されたこのデッキは、当然のように19弾環境で登場し、アンフェアデッキの一角として暴れだすに至った。

 早いデッキが更新されつつある中、低速のデッキにも新たな勢力が加わる。
 19弾で登場したセレクター組強化の高レアカード達は、そのいずれもが環境で活躍し始めたと言える。3つほどあるので、これを19弾から20弾への架け橋のアーキタイプとして見て行こう。

 メタゲームで【最幸ユキ】が最も輝いていたのはこの時期だ。
《アヴァロン・スロー》という防御回数を盛るカードに加え、《コードラビリンス ノイヴァン》という値千金のダメージソース兼防御札を獲得。これにより、相手の効果を随時無効化してはデッキ送りでリソースを奪い取っていくコントロールデッキとして、このルリグは各地で増加していくことになる。
 デッキ送り、最悪でもバウンス。相手のエナが一向に増えない様は、白ルリグであるのに毒のように相手のリソースを蝕むかの如しであった。

 主役級ルリグのユキが活躍する一方で、【伍改】が高濃度な空中戦ルリグとして再誕したのも19弾の出来事である。
《炎・タマヨリヒメ・伍改》のサーバント2枚要求効果と《極盾 アイアース》のルリグアップ効果がシグニを無視して相手のライフを殴り飛ばし、《極盾 アイアース》と《弩砲 チタイクウ》あるいは《中盾 ティンベー》が地上に強固な耐性盤面を作り上げて要求を抑えつける。
 ここから続けて20弾で《極盾 アークイギス》を獲得。最終的に、世界大会決勝を制したチームのセレクター枠で栄冠を手にしたアーキタイプはこの【伍改】になる。

 低速オールスターデッキを『架け橋』と表現したのは、3つのうち2つが20弾で登場するカードにてその真価を発揮するようになったためだ。
《極盾 アークイギス》の登場によって盤面の強固さが最大値に到達した【伍改】が片方。

 もう片方は、20弾の《幻水 ヒナニギス》によって一層の強化が果たされる【エルドラMASTER】を指す。
《エルドラ×マークⅤ MASTER》と《幻水 グレホザメ》+《幻水 ハタハタ》《幻水 カンブリ》がエクシードで3面防御を達成し、《クリティカル・ショット》が《音階の右律トオン》で完全防御を果たす。しかも、これらの防御は結果としてリソースを増やしながら行うことができるため、リソース搾取に対しての復帰力も高い。
《幻深水姫 デメニギス》と《DYNAMITE》が合わさればリソース搾取系の除去が行え、20弾で登場する《幻水 ヒナニギス》が合わさればデッキトップを仕込むこともライフを仕込むことも容易に行える。
 最後に《幻竜姫 スヴァローグ》や《コードラビリンス ノイヴァン》、《コードアート T・A・P》といった強LBのカード達が抵抗策を奪取すると、抵抗の術はもうなくなっている。
 水獣軸による高い防御力、LB利用による多彩な動き。両方のコンセプトを無理なく合致させた新弾のカード達は、これまで【止めエルドラ】や【耐久エルドラ】として絡め手に寄っていたエルドラというルリグを、環境で堂々と戦うハイパワーなアーキタイプへと成長させた。

 地続きで20弾に進もう。
《幻水 ヒナニギス》の登場からも分かる通り、この20弾は『姉妹シグニ』が一斉登場した弾だ。
《幻竜 シルシュ》が《因果応報》で削れないマルチエナを消してくれることによりそのタイプの【スイングアイヤイ】が力を増す、《大拳 ニャックル》により【ショット植物緑子】が《羅星姫 ≡コスモウス≡》以外の連続パンチ手段を手に入れる、《羅星 ≡エラキス≡》が止め系デッキを大きく強化する。

 妹シグニが過去のデッキ群を強化した例、また未来で特定ルリグを強化する例は山ほどあるが、ひとまず妹シグニが20弾メタゲームに産み落としたアーキタイプとして、真っ先に【スペル軸ナナシ】は抑えておきたい。
《羅菌 エンザ》という優秀なリソース獲得手段を得たナナシは、大量のスペルでデッキを回すことでウイルスを何回も感染させては取り除き、《羅菌姫 ボツリネス》の貯菌で圧倒的防御数を稼ぐアーキタイプを生み出した。
 毎ターン8~9個ほどの貯菌を溜めれば、《羅菌姫 ボツリネス》は耐性を持たない大体のシグニを溶かすことができる。そして、その8~9個という数は、この時期のナナシにとっては余裕も余裕。《羅菌 ノロウス》《ラブリー・バイオ》を絡めることで、ナナシはリソースを絶やさずにデッキを回転させることができた。

 妹シグニである《戦乱の一輪 オイチ》に加えLv5ルリグである《未来の記憶 リル》が登場することによって、【未来リル】も攻撃的なロストレージルリグとして環境に割り込んだ。
《矜持の豪魔 オダノブ》はこの弾より一気に妨害耐性が増えたアタッカーとなり、そして専用シグニとして新規登場した《覚悟の飛将 リョフホウ》は殴れば問答無用でダメージを与える。度肝を抜く効果で畳みかけ、しかもルリグに防御効果まで付与されているとあらば、そのデッキが活躍できるのも必然とさえ言えた。

 カーニバル、ママ、ナナシ、リル。ロストレージルリグ達は、3年かけて作り上げられたメタゲームに、明確に、しかしワントップにならない程度の実力を持ちながら、確かに割り込んでいた。

 セレクター枠に産まれた変化は、【アダンソニア軸紡ぐ】だ。
《羅植 アダンソニア》の優秀なサーチ&アドバンテージ能力を利用したこの【紡ぐ者】系デッキは、それまでの主流とは大きく異なった形になっている。
 つまり、《羅植華姫 バオバブーン》のサーチ能力まで込みで相手に合わせたLv5シグニをサーチして強力な盤面を維持しつつ、そのリソース獲得能力を使うことで相手デッキが使うであろうシグニの色を予測し、その対応色シグニを手札に揃えることで《紡ぐ者》効果によって耐久を重ねるのだ。
 タマ、ピルルク、遊月。グロウ経路が安定しやすいこれらのルリグを使うことで、この【アダンソニア軸紡ぐ】はセレクター枠の選択肢の1つとしてほぼ1年ぶりに【紡ぐ者】系デッキを環境入りさせた。

 加えて、《共存共栄》が《一蓮托生》の枠を奪い取って鉱石・宝石系の花代を強化する、《幻怪 フゥライ》がドーナの性能を引き上げるなど、その他の細かい追加も行われる。

 セレクター枠、ロストレージ枠、どちらもデッキパワーを増す中。アザー枠だけが一歩、デッキパワーで遅れていた。
 しかし、次弾でそれも、過去形になる。



■鍵と天使の新時代■

 タウィル、真化。

 特定ルリグを強化するなら、そのルリグ限定の強力カードを出せばいい。
 21弾~22弾におけるタウィル限定のカード群。そして、このたった2弾分の発売カードで一気に環境最大パワーのデッキとして大成してしまった【リワト】というデッキは、正にその実例として相応しい。

 それほどまでに、このアーキタイプは"限定カード達の暴力"という言葉が似合うデッキだった。

 このアーキタイプの特異性は、基本的に《美しき豊穣 #フレイン#》という1枚のカードに集約される。
 出現時の天使参照エナチャージとエナ3枚を使用した起動効果を持つこのシグニには、過去に《幻竜姫 #スパザウス#》という類似カードが存在する。
 だが、『相手がLv4でなくてもランデスすることができ』、『相手の場のシグニも相手のデッキボトムに置くことができ』、そして『相手のトラッシュのカードも1枚デッキボトムへ送り込める』。その性能は、類似カードの性能を圧倒的に凌駕していた。

 一つ目の点は、強烈だった。
 今となっては忘れられているが、当時はLv4にグロウするにはどのルリグもエナを払う必要があった。そしてリムーブ制限ルールがなかった。
 即ち、当時のアーキタイプとして、【リワト】だけに許されていたのだ。『相手のグロウ用のエナを全て奪い取り、マウントを取ったまま相手を殴り切る』という行為が。
 二つ目の点は、極悪だった。
《美しき豊穣 #フレイン#》の効果を最大限発揮できるようにデッキを組み上げておけば、毎ターン2~3回ほど効果を起動するのは困難ではない。相手のエナと場を2枚ずつデッキボトムに送れば、それはつまり4リソース搾取したに等しい。3回起動すれば6リソースだ。
 そして三つ目の点は、横暴だった。
《コードアンチ メイジ》。《カーニバル ‐Q‐》。相手が頼りにしている防御機構を、《美しき豊穣 #フレイン#》はいとも容易く奪い去ってしまう。

 相手のリソースを奪う時に自分のリソースも奪っていく。《美しき豊穣 #フレイン#》の弱点らしい弱点と言えばその程度だ。だというのに――《遠かりし使 リワト=フィーラ》は当たり前のように毎ターン追加で2リソースを獲得して行くし、《漁港の聖銛 §ニョルズ§》《豊穣の守護 #ヴァナディス#》は《シャボン・ウェーブ》なりと合わさって一気に手札やエナを加速させる。
《荒ぶる海洋 §ポセイドナ§》はあらゆる天使のコピーになれたし、《破壊の音色 §ニョルズ§》は安定感を、《神技の鞭刑 ≡アナフィエル≡》はダメージソースを2ターン目の時点で安定化させる。

【リワト】を形作るメインギミックのほぼ全ては21弾だけで登場したというのに――後は《シャボン・サクシード》や2,3枚の白天使を加えるだけで、このアーキタイプはとっととトップメタの座を陣取ってしまったのだ。
【スイングアイヤイ】がほとんどだったアザー枠の勢力図は、一瞬で塗り替わった。

 その凶暴性の一方、ルリグの自動効果が強制であることから、エクストラウィン的な勝利を収めるカードとして《幻獣 定時ほー&甲たそ》が一時期高騰する。その程度に台風の中心であったといえる。

《幻獣 定時ほー&甲たそ》の流行要因はもう一つ、実は《ドーナ FIFTH》が登場したことによるドーナのメタゲーム入りも関係している。
 20弾の《幻怪 ユキンコ》と21弾の《ドーナ FIFTH》《幻怪妖姫 タマモゼン》により堅牢な耐久力を獲得したドーナであったが、この21弾メタゲーム時点では《幻怪姫 カラテン》程度しか強いドローソースがなかった。
 それ故に、相手が《幻妖姫 カラテン》を出した瞬間に、《幻獣 定時ほー&甲たそ》を出して相手にドローをさせると、相手のライフクロスが勝手にパリンパリン割られていくのだ。
 強力なカード群を手にしたと言えど、実際のドーナの流行はあとほんの少し後、この項目の最後辺りになる。

 21弾といえばリワト、というぐらいにリワトの影響は大きかったが、【3止め遊月】【5ナナシ】の存在も忘れてはいけないだろう。

【3止め遊月】は、過去の【3止め緑子】【縛魔炎】と同じように、3止め自体が運営に推奨されるようなアーキタイプだ。
『手札を見せること』によって効果を発揮する様々な龍獣シグニ群が登場し、最後には昔懐かしの《幻竜 ボルシャック》や新規の《幻竜 ゲツァル》が《幻竜 タルボ》効果で実質3面並んでアタックを仕掛ける。
 赤ルリグ伝統のエナ搾取利用系アグロデッキは、明らかにデザイナーズ的なアーキタイプとして、当時の赤ルリグ愛好家に好まれるデッキとなった。

【5ナナシ】は前弾の【スペル軸ナナシ】をそのまま強化したようなデッキが主流だった。
《羅菌姫 ボツリネス》による無限防御機構が《ナナシ 其ノ後》によって更に安定化し、また 《ナナシ 其ノ後》に加えて新規登場した《羅菌 RS》が相手のリソースを蝕む。
【リワト】が猛威を振るった当時の環境において《羅菌姫 ボツリネス》が有効なカードになったことも大きく、ロストレージ枠の主流もまた【カーニバルMAIS】からこちらに移ったと言えるだろう。

 世界大会の決勝は【伍改】【カーニバルMAIS】【スイングアイヤイ】vs【2止めアン】【5ナナシ】【リワト】。21弾の発売から大きくは間を置かなかった大会でも勝ち上がれるほどに、21弾の新規アーキタイプは強かったのだ。

 そして、21弾環境が終わりを迎え。
 キーセレクション突入前、のちに発売されるWXEX-01を除けば、5周年を迎えた現状で見ても最後のオールスター弾。
 そこに登場するカード達は、ここ毎弾塗り替えられている環境を、もちろんまたしても塗り替えることとなった。

 既存デッキの強化として、まず前の弾で現れた【リワト】に《グラン・クロス》と《遠矢の名手 ≡アポロシン≡》が追加され、更にデッキパワーを増す。
 逆に『リムーブが各ターン1アクションまで』『同名カードをルリグデッキに1枚までしか採用できない』などのルールにより、ソリティア方面の動きに制限が掛けられる。ひっそりと、【ショット植物緑子】や【ウルトゥム】に【2止めママ】、また一部でカルト的な人気を誇っていた【無限トオンママ】などはコンセプトを崩壊させた。
(【ウルトゥム】はメタゲームで存在感を放っていたデッキタイプではなかったが、筆者個人の私怨として書いておく)

 ロストレージ勢としてこれまで一向に芽の出なかったグズ子が【悲願グズ子】として開花したのは22弾のことだ。
 出ればアドバンテージ、いれば相手の蘇生妨害、殴れば勝手に連続パンチ。《期之遊姫王 †ブラジャック†》は過去最強のLv5シグニとして登場し、《悲願の駄姫 グズ子》と共に対処困難なショットデッキとして活躍を始めた。
 一度殴り始めれば相手のライフを全て吹き飛ばすようなアプローチを、このルリグは何回も行えるのだ。コインをベットすれば実質的な除去耐性まで付き、受け止められる相手は更に減る。
 コインベット可能回数は、2回だ。

 22弾は、最終弾であると共に、長らく開花していなかったルリグ達の開花の弾とも言えた。
 グズ子と同じように、登場してからこれまでずっと燻っていたハナレも、ここにきて【真幸ハナレ】として環境に躍り出る。
《真幸の冥者 ハナレ》《フンフ=ヨルムガン》の圧倒的な防御力とアドバンテージの生成能力が、今までかつかつのリソースを細かく使い回すだけだったハナレを呪縛から解放した。そして、《虚無の閻魔 ウリス》《紡ぐ者》に次ぐ13というリミットを持つハナレは、強力なLv5である《コードアンシエンツ ヘルボロス》なども採用しやすい特性を持っていた。
 Lv4まではどうにか耐えて、Lv5になったらリソースが爆発する。重たくてたまらない不遇な黒ルリグは、強力なフェアデッキとして環境で暴れ回った。

 鉄壁を誇っていながらもダメージソースの貧弱さで戦えなかったアン、一時期の一強の反動を受けてずっと鳴りを潜めていたミルルンの両者が新たなLv4ルリグを獲得し、活躍を始めるのもこの弾だ。

 エクシード4による3面バウンス、アタックフェイズごとに相手シグニを1面バウンス。《一層の一掃 アン=フォース》を手に入れたことにより、アンはとうとう継続性を持った点数要求能力を手に入れる。
《図画の工作 ⁑カミネンド⁑》 や《催事の誘導 イベントポップ》といったリソース獲得シグニのおかげで《彫心鏤骨》の発射数も安定するようになった【一掃アン】は、1年目の発売から長い時を経て、ようやく真にメタゲームに割り込むことに成功したと言えるだろう。

《NOISY》《STAR ARROW》、《羅原 Xe》、そしてこの弾の《羅原 Nh》。弾を重ねるごとに《RAINY》《羅原 Ar》の代用品を手に入れつつあったミルルンは、ノーコストのスペルカットインと4回分の防御を手に入れた新規ルリグ《ミルルン・モル》の登場により、再びスペルの王者として環境に君臨した。
《羅原 U》《ゲット・アヴァロン》によるリソースの回収システムに加え、《羅原 アルミ》《羅星姫 ≡コスモウス≡》といったアタッカーの増量もソリティアらしく全て取り込んだミルルンは、この弾でやはりメタゲーム入りし、次の弾の発売で更に強化が入ることとなる。
 強化については次で話すが――まあ、ミルルンというルリグが2年の時を経て再び環境にソリティアデッキとして現れたという事実は間違いないことだ。

 さて。
 デザイナーズデッキをあらかた話したところで、先ほどグズ子のところで話したことをもう一回話す必要がある。
 そう、《期之遊姫王 †ブラジャック†》は最強のLv5シグニだった、という点だ。それが意味するところはもちろん――《紡ぐ者》が使っても強い。そういうことだ。

【遊具軸紡ぐ】は、【悲願グズ子】や【真幸ハナレ】が幅を利かせ始めたこの22弾環境において、あろうことか手札に黒シグニを溜め込んで相手の攻撃を全て受け止めようというアプローチが採用されたデッキだった。
 前の環境まではアイヤイが我が物顔で使っていた遊具クラスのシグニ達だが、実はそこに紛れる下級シグニ達には限定の付いていないものが多い。しかも、登場したばかりのハッカドールシグニ達のおかげで《紡ぐ者》が他色ルリグ達と戦うために必要な5色のシグニも揃っていた。
 デザイナーズデッキがどんどん環境に進出する中で、不意に生まれた強力なプレイヤーズデッキがこのデッキだ。
 ウムルはこの時期の【遊具軸紡ぐ】の下敷きとして、アイヤイは【遊具軸紡ぐ】に投入する遊具シグニの追加枠として。この弾で強化を受けども環境入りしなかったルリグ達は、しかしこのアーキタイプを誕生させるための糧となることで、微かに影響を残すこととなる。

 一通りのデッキが活躍をして。
 この弾を最後に、エキスパンションはキーセレクション強化へと移っていく。
 その第1弾の発売に先駆けて、何枚かのキーが登場した。

 最後に紹介するのは、先行発売されたキーによって明確に強化されたアーキタイプ――【ドーナFIFTH】である。
 コインが2枚あれば全面防御が達成できるこのデッキにとって、カードゲーマー付録《双撃の記憶 リル》は最高の相性を誇るカードだった。
 コインの増加効果で最も強力な防御能力の発動回数を増やし、なおかつリソースの供給量も大きく増加。
 加えて22弾で《幻怪姫 ネコマター》という強力なアタッカーまで手に入れ、Lv5ルリグを得ても後1個何かが足りなかったドーナは、ようやくロストレージ組としては後ろから二番目となるトップメタへの参戦を果たすこととなったのだ。

 一番最後に登場したデッキが、新ギミックであるキーを扱うデッキ。
 その台頭は、間違いなく新時代の到来を感じさせるものであった。

 

■メタゲームに新規で登場したデッキ群■

WX18
【2止め遊月】
【圧縮アロス】
【散華ウリス】
【スノロップカーニバル】

WX19~WX20
【スイングアイヤイ】
【カーニバルMAIS】
【2止めママ】
【3止めママ】
【散華虚幸】
【最幸ユキ】
【伍改】
【エルドラMASTER】
【キスドラ】
【アダンソニア軸紡ぐ】

WX21~WX22
【リワト】
【3止め遊月】
【5ナナシ】
【悲願グズ子】
【真幸ハナレ】
【一掃アン】
【ミルルン・モル】
【遊具軸紡ぐ】
【ドーナFIFTH】
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